A/Bテストに向けての仮説づくり
時々勘違いしている人もいるようですが、A/Bテストは仮説を検証するための手段です。A/Bテストを通してコンバージョンを向上させるためには、効果的な仮説づくりが不可欠です。コンバージョンを大きく向上させそうな仮説を生み出せさえすれば、後は実装して、テストを行うだけです。
しかし、この仮説づくりこそがA/Bテストを実施するうえで最も難しい部分です。コンバージョン最適化の経験がない人にとっては、何を変更すればコンバージョンが向上するのか検討がつかないかもしれないです。経験がある人にとっても結果が汎用的かどうかの判断は難しく、過去の経験に基いて自信を持って作った仮説が逆の結果になってしまう、ということはよくあることです。
もちろん、仮説が間違っていたということ自体には特に問題はなく、間違ったという結果が確認できた分、テストの価値があったといえるでしょう。しかし、適切な仮説を作れなければ、いくらテストをしても意味がありません。やみくもにCTA(Call to Action)のボタンの色を変える。ちょっとした文章を手直ししただけのテストをする。このようなテストを繰り返して有意差が全然出ない結果が続く。そして何度テストしても一向にCVRが向上しない。こうならないためにも、適切な仮説づくりがコンバージョン最適化のキモとなります(もっとも最悪なのは、適切な検定を行わず見かけの数字だけで結果を判断し、文脈を無視して過度な一般化を行い、正しいものとしてしまうことですが。。。)
では、どうすれば効果的な仮説が作れるのか。まずは改善の「ベクトル」を間違えないことです。単純にCTAボタンの色を変えても効果は出ません。仮に結果が出たとしてもそれは「色が変わったこと」自体の結果ではなく、多くは「視認性の向上」によるものです。どのような仮説に基いて最適化をするとコンバージョンが向上しやすいか、というポイントを抑えておく必要があります。
アメリカのコンバージョン最適化を専門に行っているコンサルティング会社「WiderFunnel社」はA/Bテストの仮説構築化のためのフレームワーク「LIFTモデル」を提唱しています。仮説を考えるための枠組みとしては非常に優れている考え方なので、紹介したいと思います。
LIFTモデルとは
正式には「Landing Page Influence Function for Tests Model」と言うようです。コンバージョン向上に効果的な仮説構築のためのフレームワークとしてWiderFunnel社が作り出しました。WiderFunnelのChris Goward氏は「You should Test That」という素敵なタイトルの書籍も出しており、そちらにもLIFTモデルが詳しく説明されています。
LIFTモデルは図中にあるような6つの要因によって構成されています。それぞれの要因を改善していくことによって、コンバージョン数を向上させていくということが基本的な考えです。
1. Value Proposition(価値提案)
商品やサービスの価値を提供する部分です。どのような内容でユーザーに商品を訴求するか、どのような見せ方にするのか、どのような追加オファーをするか、などが含まれます。当然といえば当然ですが、Value Propositionは6つのコンバージョン要因の中で最も重要という位置づけで、ここでどのような価値提案をするのかが他の要因にも大きく影響してきます。
2. Relevance (関連性)
Relevanceで特に考慮すべきものはユーザーの考えとLPとの「関連性」です。LPの流入元となる広告では「価格」を訴求しているのに、LPでは全く違う「機能」を訴求したりすると、ユーザーに混乱を招きます。ユーザーが混乱しないように、流入元とLPでメインの訴求内容を合わせたり、用語を統一することがコンバージョン向上へと繋がります。
3. Clarity(明瞭さ)
訴求内容は曖昧さを持たずにシンプルになっているのか、用語はわかりにくくないか、CTAボタンは見落とされていないか、などLPにおける「明瞭さ」には多くの改善の余地があり、コンバージョンの向上にも役立ちます。「明瞭さ」はWeb制作担当が気づきやすい点であり、テストもしやすいので、ここに注力してしまいがちです。しかし、「明瞭さ」はあくまでもワンオブゼムであり、改善の中心は「価値提案」であることを忘れないようにしておくことです。
4. Urgency(緊急性)
Chris GowardはInternal UrgencyとExternal Urgencyの両方を紹介していますが、B2C向けのECサイトではExternal Urgency(外的緊急性)の方が重要でしょう。これは一言で言えば「煽り」です。「今だけ○○円」であるとか「期間限定」などの訴求で「いま買わなくてはいけない理由」を与えます。「いつ買っても同じ」ではなく、「いま買わないと損しますよ」とユーザーにお訴求することでユーザーに購入を促します。TVショッピングとかでよくある手法ですね。Webでも効果的です。
5. Anxiety(不安)
これもよく言われることです。ユーザーの不安感を取り除くことは重要です。Verisignやウィルス対策ソフトのロゴを掲載しているECサイトはよく見られます。しかし、これも文脈によって異なることがある点に注意してください。単純にロゴを貼れば良いというわけではありません。実際に「You Should Test That」の中でもセキュリティシールを貼ったことでコンバージョンが悪化した事例が掲載されています。十分に信頼のある企業でユーザーのITリテラシーが高くない場合は、セキュリティシールそれ自体がセキュリティに対する不安感を想起してしまうこともあります。
6. Distraction(注意をそらすもの)
ゴールに向かって一直線である方がコンバージョンへの確率は高まります。あれもこれも訴求したいばかりに、無関係なリンクを置いたり、別の商品の訴求をしたりすると、ユーザーはそちらに気を取られてしまい当初の目的を忘れてしまいます。全ての訴求内容はコンバージョンというゴールに向かって一貫性を持っているものでなくてはなりません。
Value Propositonについて
LIFTモデルは仮説のアイデア出しの考え方としては非常に有用だと思います。一つ文句があるとすると、「Value Propositon」って範囲広すぎないですか?ということです。漠然と「価値提案」が大事だと言われても、そりゃそうですよねとしか言えないです。。。
上述の本やWiderFunnelのブログではもっと詳細に説明されているので、そちらも参照してもらえれば良いと思うのですが、僕なりに「Value Propositon」をもうちょっと分解して考えます。
1. 商品のメインオファー
メインとなるキャッチコピーです。この商品の最大の売りは何かという部分になります。メインオファーを変えるということは商品の売り方を変えるということです。見方によってはモノは同じでも全く違う意味を持った商品となることもあります。旧来のマーケティングでいうところのリポジショニングに当たるとも言えます。メインオファーを変えることによって、想定していなかったターゲット層に響き、爆発的なヒットを生む可能性もあります(もちろん全く反応しない可能性の方が遥かに高いですが)。訴求ポイントがいくつかある場合は、訴求点を見せる順番を変えるだけで効果が出ることもあります。
2. 商品外のオファー
商品とは直接関係の無い部分でのオファーも重要な価値提案要素です。具体的に言うと「ここで買う理由」がこれにあたります。値引きをはじめ、クーポンやポイントなどの金銭的なオファー、配達の早さやサポートの充実などのオファーも重要なコンバージョン要因となります。
3. 訴求イメージ
コピーだけではなく、コピーを効果的に伝えるためのイメージ画像もコンバージョン要因となりえます。モノだけではなく人を使ったほうが良い、であるとか、人が商品を見ている絵だと商品に注目が集まるとか、まことしやかな言説もありますが、仮説として検証するには良い材料ではあります。
4. オファーの量
オファーの質が最も大切なのは間違いありませんが、「量」もテスト対象となりうります。日本のECサイトでは楽天式の長くてストーリーのあるLPが受け入れられていますが、英語圏ではほとんど見られません。どれだけ詳細に(=しつこく)オファーを行うことがコンバージョンへと繋がるのかを検証することは重要なことでしょう。
LIFTモデルはコンバージョン改善手法ではない
LIFTモデルはあくまでもA/Bテストに向けた仮説構築のための考え方(=フレームワーク)です。LIFTモデルに基いてLPを作り直せば、コンバージョンが改善します、というものではありません。この点はChris Gowardも強く強調しています。LIFTモデルに基いて作った仮説をA/Bテストで検証することが絶対に必要です。LPを作り直し終わりではありません。A/Bテストをして検証して初めて価値が出るものです。
巷には「こうやってLPを作れば絶対にCVRが改善します」という人がたくさんいますが、100%インチキです。そしてこういう人こそ、CTAボタンの色は赤が一番であるとか、ファーストビューがどうだこうだとか、小手先の適当なことを言います。A/Bテストを何百回やった結果だと言っても、たいていその人が関わっている業界が偏っており、汎用的であるとは言い切れません。
重要なことは自分のサイトで検証していないことは全て「仮説」として考えて、A/Bテストで検証することです。思いつきは直感でも判断はデータに基いて行う。そして、一つ一つ地道に改善をしていく。このような姿勢が大事です。