アクセス解析では、初期の段階から「どの指標を見るべきか」という議論はよく行われていました。古くは、「ヒット数からPVへ」、「PVからセッションへ」という議論から、KPI設定についての議論まで、様々な議論がなされてきました。
しかし、時には
- どのサイトでもこの指標は見ておくべきだ
- この指標さえ見れば、効果測定ができる
という「共通指標」に関する意見も耳にすることがあります。後者は極端にせよ、前者はわりと普通に言われていることです。例えば、PV/セッション/ユニークユーザーの3つの指標は「基本指標」と呼ばれることも多く、どのサイトでもこれらの指標は見なくてはいけないと真顔で言う人達も少なからずいます。
少し古いですが、2007年にEric Petersonが発表したビジターエンゲージメントを評価する指標は、(いろんな意味で)話題となりました。
http://blog.webanalyticsdemystified.com/weblog/2007/10/how-to-measure-visitor-engagement-redux.html
Ericは、この(複雑で奇怪で滑稽な)数式に指標を当てはめて、サイトへのエンゲージメントを評価する際の共通指標としようというエレガントな考えを発表しました。
最近では、ソーシャルメディア関連で同じような共通指標化への動きが少し見られます。Kloutスコアは既にデファクトスタンダードになっているじゃないか、という意見もあると思いますが、Kloutスコアは、ユーザーの影響力を測るための指標であり、効果測定の指標とは異なります。
ここで、「効果測定」と「ユーザー調査」の違いについて明確化しましょう。「効果測定」とは、何らかのビジネス的な施策に対する評価を測定することです。「ユーザー調査」とは、ターゲットとなるユーザーの意識・行動を明らかに使用とするものです。この2つは同じ「リサーチ」と括られることもありますが、完全に異なる「目的」を持っており、まったく違うものです。
今回は、WebサイトやWebマーケティングにおける「効果測定」において、どのようなサイト・施策でも利用可能な「共通の指標」を作ることは可能なのかを考えます。
効果測定指標策定の方法
まずは、通常、効果測定用の指標を策定する流れを考えます。いわゆるKPI設定の方法です。
いくつかKPI設定の方法はあると思いますが、基本的な考えは共通しています。
1.ビジネスゴールを設定する
Webサイトやマーケティング施策で、達成すべきビジネスゴールを明確に設定します。
2.「成功要因」を特定する
ビジネスゴール達成のために何をすべきかを考え、「成功要因」として洗い出します。
3.KGI/KPIを設定する
ビジネスゴールを直接的に評価する指標を「KGI」とし、成功要因を評価する指標を「KPI」として設定します。
これが通常行われる効果測定用指標策定の方法です。
全てのサイトはユニークである
このようなKPI設定方法を考えると、「共通指標化」は不可能だということが容易にわかると思います。
まず第一に、「ビジネスゴール」が同一であることは、ほとんどありません。それぞれのWebサイトやマーケティング施策によって、ビジネスゴールは異なります。ビジネスゴールが異なれば、当然、KGI/KPIも変わってきます。
仮に、ビジネスゴールが同じだったとしても、実際に取った戦略/戦術(=成功要因)は異なります。同じゴールを目指しても、サイトの作り方であるとか、マーケティング施策の方法は、制作者/マーケターの考えによって変わってきます。同一の施策に落ち着くことは、まず考えられません(パクリでなければ)。
実際、サイトの構成まで他社のサイトをパクったとしても、完全な指標の共通化は難しいでしょう。というのも、企業によって、製品のポジション、組織体・運用体制、予算・事業の重要度、などが異なり、成功要因も大きく変化してしまうからです。
そして、KPI設定において何よりも重要なことは、「合意形成」です。様々なステークホルダーが集まり、この指標を見ることによって評価するという「合意」が取れなければ、KPIとして設定した意味がありません。合意がない状態では、KPIが好転したところで、「だから何?、そんなの知らない」で終わってしまう恐れもあります。
つまり、KPIは事業体に強く依存するものであって、どのサイトでも有効なKPIなど存在するわけがない、と言えます。おそらく、ビジネスゴールはある程度、カテゴライズできるはずで、各カテゴリごとに、KPIの「プロトタイプ」的なものは設定できるでしょう。しかし、実際に適用するには、長い議論と事業に合わせたカスタマイズが不可欠です。
方法論のフレームワーク化
効果測定指標の「共通化」は無理な相談です。サイト・施策によっては、PV/セッションですら、不要な場合も多々あります。ただし、評価方法の方法論・考え方自体は共通化することは可能だと思っています。つまり、フレームワーク化です。
上で挙げたKPIの設定方法もフレームワークの1つと考えることができます。上記のプロセスは、どんなサイト・施策でも有効です。よく言われるPDCAもフレームワークです。ここでは、詳しい説明は控えますが、僕は効果測定周りで、下記のフレームワークをよく利用します(詳しくは、リンク先を参照)。
当然、「フレームワークの共通化」と「測定指標の共通化」は完全に別物です。フレームワークはあくまでも考え方であって、インプリメントは個々の案件に合わせて、行わなければいけません。「考え方の共通化」はできても、「レポートの共通化」はできません。
そして次のステージへ
このブログでは、こんな当たり前の話は、あえてしないようにしていました。もっとマニアックで誰も必要としないようなネタばかり取りあえげてきました。しかし、最近、身近なところから複数の爆弾が降ってきてしまって、「僕は違います」という宣言をした方が良いかなという思いもあり、こんな感じのエントリを書きました。
それと、もう1つ。最近、「KPI設定」の考え方をさらに推し進めたフレームワークを構築する必要性を感じ始めています。今後1年間で、Web Analytics周りで、確実に大きな転回があります。
それは、
「セッションからユーザーへ」
という転回です。
「ヒット数からPVへ」、「PVからセッションへ」という大きな転回と同レベルでの転回が必ず起きます。「セッション」ではなく、「ユーザー」を基本とした測定方法のフレームワーク化が必要になってくると考えています。まだ、具体的な方法論は考えてすらいませんが、今後すぐにでも手をつけなくてはいけないと思っています。